老麺の科学③ 細菌発酵の歴史
2020.12.08
老麺の科学②からの続き
日本における老麺研究第一人者である長野宏子氏は、世界中のあらゆる伝統的小麦発酵食品を採取し、その膨化源を調べたそうです。酵母だけに頼らず様々な微生物を使った発酵食品が多くあるという結果を得ました。
酵母と桿(かん)菌のもの、桿菌の割合が多いもの、桿菌だけのものもあるようです。
※桿菌・・・棒状・円筒状の細菌。ちなみに酵母菌は球形。
中国の饅頭、包子においても、その地方ごとに特色があり、発酵(膨化)に酵母と様々な微生物が使われてきたとのことです。
そして、老麺は、明らかに酵母とは”別のもの”として扱われてきました。
しかしながら、昨今、パンや饅頭における発酵は、パン酵母、レーズン酵母、などなど、酵母菌によるもの、といった言われ方をしているとは思いませんか。発酵種のスターターを野菜や果物などで起こしたとして、それが酵母であると言い切れるでしょうか。
たとえばりんご浸漬液が2日間程度のものであれば、酵母菌ではなく、細菌である可能性があるのです。
なんでもかんでも天然酵母と言ってしまうのは正しくないですし、化学的な理解なしに、小麦食品を正しく膨化させることは難しい、と言えます。
老麺による発酵とは、細菌=バクテリアによる発酵、なのです。そして、大半は水素ガスを産出するものです(二酸化炭素も少し出します)。酵母菌によるアルコール発酵とは別ものです。
しかし、ここで、なぜ昔の人は、酵母を全面的に使わなかったんだろうね?という疑問がおきます。確実に酵母だけで膨化できるのではないか?なぜに細菌?
まず、昔は冷蔵庫もありませんし、老麺の方が元種を楽に管理できたかもしれません。そもそも、酵母菌の寿命には限りがあり、20回分裂すると死滅してしまうそうです。なんて儚いのっ(笑)。バクテリアは条件さえそろえば永遠に生き続けることができるようです。
なお、中国には重曹成分の多い温泉があるそうですが、ここの水を使うことで老麺饅頭を加熱の際、容易に膨化させることができていたのでは?という仮説も頂戴いたしました。さらにモンゴルにはかん湖というトロナ鉱石の豊富な土地があり、ここには炭酸ソーダ、重曹が豊富な土壌があるというお話も。
そのへんの歴史を紐解くと、色々とロマンが膨らみます(笑)。一方で、各種酵母や微生物系の研究論文に目を通すには化学の知識が足りず、脳は酸欠状態。
色々な老麺、元種の中の微生物を同定できれば、もう少し色々発展していくとは思うのし、老麺がただただミステリアスで、老麺使ってて偉いだろぉ的な商売は無くなっていくのではないかと思います。つづく(かも)